Japan Craft Book メールマガジン

【vol.26】見る者を静寂な世界に誘う。書家・辰巳紫瑛

前回のニュースレターの中で、隠岐島前神楽の神楽歌の中にある一節


東を拝めば神が降りる。
諸々の神も花の様に美しく見える。

南を拝めば神が降りる。
諸々の神も花の様に美しく見える。

西を拝めば神が降りる。
諸々の神も花の様に美しく見える。
北を拝めば神が降りる。
諸々の神も花の様に美しく見える。

(この書も紫瑛先生によるものです。実際の書籍には違った形で掲載予定です)

をご紹介したところ、
ある方から、次のようなメッセージをいただきました。

「東西南北どこを拝んでも神様がいて花に見える……。
 私が幼い頃に母に言われていた言葉を思い出しました。 
『あなたが、神様を求める時、必要な時に、その場所に神様はいる。 空を見上げれば空に、山にも海にもどこにでも。 神様って特別な場所にいるのではないよ。あなたの心にいてくださるよ。』 
私がベッドで泣いていた時の言葉です。 
『たかちゃんがあんまり泣くから、お天道様が一緒に泣いてくれてるわ』
 母はまだ健在なのですが、今このメッセージを書いていて、なんだか泣けてきました。」


なんて素敵なお母様なのでしょう。
たかちゃんの心にぱっと咲いた花が、私にも見えたような気がしました。

どんなときも神様がいてくださるから大丈夫。
そんな言葉をかけてもらって育った子どもは、心根のやさしい人になるはずです。
そして、その優しさは、いつしか誰かを守る強さをも宿していくことでしょう。
ありがとうございました。

さて、今回は、
『神迎え』の題字と本文の一部の書を担当してくださった書家・辰巳紫瑛先生をご紹介します。

    

(あえて、逆さです。この角度、美しいと勝手に思っております)


<プロフィール>
書家・辰巳紫瑛 (たつみ しえい)

6歳の時から書を学び始める。
生き物のように動く筆運びに夢中となり、9歳の時に「ゆめ」で文部大臣賞を受賞。
高校時代に書の古典である王羲之の「蘭亭序」と空海の「風信帖」に触れ、益々書の世界に魅了されるようになる。専門的な知識と技術を学ぶため、日本で唯一特別 書道科のある奈良教育大学特別書道科に進学。東洋で古来受け継がれてきた伝統文化としての書を学究。さらに同大学院にて、五書体(篆・隸・草・行・楷)の中でも行・草体を第一の研究分野とする。大学時代より宮崎葵光の門下に入り、現在も師事。
近年は禅語や漢字仮名交じり書(調和体)にも学究の幅を広げている。
 
2015年より毎年、稲毛神社の「有名人慈善絵馬展」にて推薦作家として出品。
2022年・2023年「日本の書展」出品。2007年には桐蔭学園中学校にて書道講師。
 
読売書法会幹事 
小田原にて青冰書道会主宰 
神職者を対象とした書の指導などにもあたっている。
大阪府出身

 

 

函を開き、最初に目に飛び込んでくるこの美しく静かな題字が、この本全体の印象に大きく影響していることは間違いありません。


実は、水野先生から絵をお預かりした段階では、本の題字は、あえて既存のフォントから選び、シンプルに仕上げる予定でした。
(もちろん、こだわって選ぶわけですが)

1つの土台(本という小さな世界)の上に、複数のアーティストの才を掛け合わせてしまうと、不協和音を生むことがしばしばあり、その怖さをよく知っていたからです。

ですが、ご縁というのは不思議です。
このプロジェクトがある程度進んでから、紫瑛先生と導かれるように出逢いました。

最初にお目にかかった時、
私が「何をなさっている方ですか?」とお尋ねすると
「大したことはしておりませんが、永く、書だけは続けております」
と、遠慮がちにおっしゃったのをよく覚えています。


さらに、
「最近の書家の方を見ていると、書そのものよりもパフォーマンス優先のような気がするのですが・・・」と私見をお伝えしたところ、

「そうですね。書道というものは、自己表現という『個』や『技法』のアピールをするのではなく、余計なものを盛り込まず、削ぎ落とすからこそ宿る品格を追究してきた道なのです。心を整えるための書を、私はもっとお伝えしていきたいのですが・・・」
と話してくださいました。


この瞬間、私の考えは変わりました。

紫瑛先生にジャパンクラフトブックプロジェクトの概要をお伝えし、
「『神迎え』と書いていただけませんか。でも、もしかしたら、もしかしたらですよ、せっかく書いていただいたにもかかわらず、使用しないなどということもありうるのですが・・・」
と、失礼千万なお願いをしたのです。


それから10日後・・・

 

 

様々な書体で書かれた「神迎え」が送られてきました。1枚1枚、似ているようで、どれも確かに違う存在感を放っていました。


また、添えられた一筆箋には、「神楽の世界観、そして、みなさまの作品の邪魔にならないよう、なるべく削ぐように努めました。」とありました。

 

 

この中の1枚が、箔押しとなって表紙に納まり、見る者を静かに神楽の世界へと誘ってくれます。
そして、今となっては、この題字なしにこの本の存在が成り立たないとさえ思っています。

紫瑛先生、ありがとうございました。

   
【 Japan Craft Bookプロジェクト進捗状況】

「いつごろ完成予定ですか?」とのお問合せをいただくことが増えました。
ありがたいことです。
そして、お待たせしてしまい、申し訳ございません。

まずは、特別限定版の『神迎え』30部を秋までに完成させるべく、進めています。
シリアルナンバー入りで刊行します。

函にも、和紙をどう活かすか、という面倒な注文を、デザイナーの谷さやさんにお願いしているところです。引き続き見守っていただけると幸いです。
どうぞ、よろしくお願い致します。

なお、ご質問やご要望等ございましたら、こちらのアドレスまでご連絡ください。
きっと励みになります。
official@japancraftbook.com

今号もありがとうございました。

JapanCraft Bookのインスタグラムを地味に発信しています。

制作の過程を後追いですがご覧いただけます。よろしくお願い致します。
https://www.instagram.com/japan_craft_book/

Japan Craft Book プロジェクト 

代表  稲垣麻由美

ーつづくー

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