「Japan Craft bookの第一号は焼火神社の絵本にしたい」
そう決めたとき、島根県の和紙を使うことを同時に決めました。
神様の依代(よりしろ)となり、我々の思いを託す紙は、その物語とゆかりある場所のものにしたい。――それは今回のプロジェクトを立ち上げたときに最初に浮かんだことでした。
そして、2冊、3冊と制作する度、日本各地にある和紙の産地を順に巡り、ご縁が広がっていくことを思い描いています。わずかながらも需要を作り、その土地の和紙の素晴らしさを発信するツールの一つにJapan Craft bookがなれれば、心から嬉しいと思っています。
「日本の神様の物語を、日本の紙に綴る、描く」というコンセプトは、そんな思いからも生まれています。
とはいえ、私には島根県の和紙工房とのご縁はなく、どうすべきかしばし思案していました。
そんなとき、弊社開催のイベントの際に「和紙の本を作ることを考えている」と話したところ、そのときの講師の方から「和紙を扱うスペシャリストといえば、横尾さんよ。和紙の素晴らしさを世界へ発信している人がいるわ」とご紹介いただいたのが、マスミ東京(https://www.masumi-j.com/)の社長・横尾靖氏でした。
どうも今回のプロジェクトについては、必要な人にはタイミングよく出逢えるよう神様が采配してくださっていると感じています。
横尾氏は表装美術家であり、日本の伝統文化の融合というべき表装文化を広めるべく、国内のみならず、ヨーロッパ各国、中国、ロシアなどでも展覧会やワークショップを積極的に開催していらっしゃいます。
その横尾氏が「島根なら、石州和紙の西田和紙工房さんでしょう。ご紹介しますよ」とおっしゃってくださり、全てが決まりました。柳宗悦が刊行していた雑誌『工芸』の紙が、石州和紙であったことを読み知っており、ストンと落ちるものが私の中にありました。
そして2022年7月。私は画家の水野竜生先生、デザイナーの谷さやさんと一緒に、島根県浜田市にある西田和紙工房(https://www.nishida-washi.com/)を訪ねました。
案内してくださったのは、7代目の西田誠吉氏です。工房にて制作過程を一つ一つ丁寧に説明してくださっただけでなく、楮(こうぞ)畑を農家さんと一緒に案内までしていただきました。
ご存じかもしれませんが、石州和紙は1300年の歴史を誇り、萌黄色や茶褐色を帯びた色と、極めて強靭で剛直な風合いが特徴です。かつては大阪商人の帳面には欠かせないもので、火災の時には井戸に投げ込み保存を図ったという逸話が残っています。
現在では桂離宮や二条城などの文化財修復の下張りや裏打ちなどにも使われています。2009年にはユネスコ無形文化遺産に登録。また、地元の石見神楽に欠かせない重要な存在で、面はもちろんのこと、花形といえる巨大な八岐大蛇(やまたのおろち)は竹と石州和紙だけで作られているそうです。
ただ、この地で和紙を作っているのは現在4軒の工房だけです。資料によると、明治22年には6377軒もあったそうですから、この激減ぶりからも時代の流れが読みとれます。
楮農家も成り立たなくなり、製造そのものが危ぶまれる状況が長らく続いていたそうですが、Iターン、Uターン人材を取り込むなど、様々な努力の積み重ねの結果、ここ10年で漸く楮が地元で完全自給できるようにまで復活したと伺いました。ぜひ、何かを感じられた方は一度、現地を訪ねてみることをおすすめします。
そして今、私の手元には、石州で育った楮を使い、石州の風土で漉きあげられた和紙に水野先生が描いてくださった隠岐島島前神楽の絵があります。
木の皮の繊維を用い、清らかな水で漉き上げる紙は神聖で清浄なものであり、日本人にとって紙は神に通じるものとしてきました。そこに描かれた御神楽の世界は美しいだけでなく、目に見えない神様が我々人間と一緒に戯れ愉しんでおられる様子が見事に描かれています。
眺めるほどにどこかこころ楽しくなるこの絵を、皆様に早くお届けしたいと準備を進めています。
Japan Craft Bookプロジェクト
代表 稲垣麻由美
ーつづくー