先日、このプロジェクトでお世話になっている石州和紙・西田和紙工房の西田誠吉さんが「手漉き紙四人展2023」(6月19日〜24日)を小津和紙(東京・日本橋)で開催されると伺い、水野竜生先生、デザイナーの谷さやさんとお目にかかってきました。
もちろん、制作中の本を抱えて。
(我々の視点だけでは思いつかなかった、貴重なアドバイスをいただきました。西田さんとデザイナーの谷さん)
西田さんにお目にかかるのは約1年ぶりです。
島根県浜田市三隅町にある工房に伺ったのは2022年7月21日のこと。朝7時10分羽田発の飛行機に乗って出雲空港へ。その後、レンタカーでひたすら西へ走ること2時間半。我々を迎えてくださった西田さんの柔和な笑顔に、朝から張り詰めていた緊張が一瞬で解けたことを、東京のど真ん中で再会し、思い出しました。あの日は、このプロジェクトが本格始動した大事なスタートの日でもあったのです。
(小津和紙さんでの四人展にて)
今一度、西田和紙工房7代目・石州半紙技術者会会長でもある西田誠吉(せいぎ)氏について紹介させてください。
初代の西田作三氏は文化・天保の頃に活躍されていたそうですから、200年も和紙とともに歩んでこられた家系です。紙づくりは浜田藩の財政を支える重要な産業だったため、江戸の最盛期には2000軒を超える作業所があったそうですが、現在は4軒のみ。地元の原料にこだわり、8代目となるご子息の勝さんとともに、「気持ちの伝わる手仕事として残していきたい」と続けておられます。
石州和紙は1300年の歴史を持っており、書画紙以外にさまざまな用途で使われていますが、石州和紙ならではのしなやかさと強靭さ、糊もちがよく伸び縮みがないという特徴が最大限に活きる修復紙、裏打ちの紙としての需要が多いそうです。
ボストン美術館・大英博物館などでも貴重な美術工芸を保存修復するのに欠かせないものとして、また、二条城の襖の下張、屏風・障壁画の裏打ちにも、西田さんの和紙が使われています。
工房の若手の方が、「アーティストではなく、職人として、用途に合わせて紙を漉くことが大事」とおっしゃっていたこと。そして、西田さんの「誰の目にも映らず、地味なところで下支えする仕事に誇りを持っています」との言葉が強く印象に残っています。
(工房にて一緒に。島根の血をひく私はどこか懐かしい気がしました)
近年はインテリア用の和紙の注文なども増え、新たな作品も次々と発表されています。大手ホテル企業からの依頼にあわせて制作された、藍の濃淡と墨の濃淡で日本海の昼と夜を表現した和紙のパネル作品には、特に魅了されました。弁柄色の壁にそのパネルはとても映えるそうで、いつか作品を愉しむことを目的にそのホテルに泊まってみたいと思っています。
また今回、雅楽で使われる篳篥(ひちりき)のリードにも石州和紙が使われていることを西田さんから伺い知りました。我々の知らないところで、和紙はまだまだ重要な役割を果たしており、まさに伝統を守り、革新を続けながら、伝承されています。
さて、会場で「石州半紙」鶴 「石州半紙」稀 と書かれている箱を見つけました。違いは、楮の繊維をほどくためにビーターという機械を使うか、人間が手打ちするか(「六通六返し」といい、硬い木盤の上に原料をのせ、樫の棒で左右六往復し、上下に六回返して叩きます)、塵をどこまでとるか、また、機械干しか天日干し(絞った紙床を一枚一枚剥がし、銀杏の干板に貼りつけ、お日様にあてて乾燥)か、その工程の一つひとつの違いによるものだそうです。
ちなみに、Japan Craft Bookの『神迎え』で使用する和紙は、こちらの「稀」です。
この紙が誕生するまでの工程と手間、楮農家の方、携わっておられる方々のお顔が見えてくればくるほど、この本が、物語を伝える以上の役目を果たしていくようにとの思いが強くなっていきます。
そしていずれ、このニュースレターを読んでくださっている方々にお声かけをし、西田和紙工房や焼火神社にご案内するツアーなども、計画したいと思っています。
Japan Craft Book プロジェクト
代表 稲垣麻由美
ーつづくー