「日本の精神性を宿した本を作りたい・・・」そう思ったものの、どうすればよいのかしばらくわかりませんでした。それはとても曖昧で、捉えようがなく、人それぞれが感じるものでしかないからです。
ただ、日本人の精神性を集約させたものを一言でいうならば、「神様」であろうとはすぐに思いました。日本人は森羅万象に八百万の神が宿るとし、巨大な巌や泉湧くところにしめ縄をはり、山川草木に仏性が宿るとしています。私は神社仏閣の多い街に住んでいますが、小さな子どもや朝の通勤に忙しい人たちでさえ、神社の前を通るときは自然と足を止め、一礼をする姿を頻繁にみかけます。その姿はなんと美しいことか。
また、日本に溢れる「道」とつくもの、武道・茶道・花道・・・それら全て、元を辿れば「神様」に行きつきます。目に見えない神を日々気配として感じ、あらゆるものに手をあわせる日本人の感覚こそ、まさに宝だと思うのです。
そんなことを考えているうちに、前号でお伝えした和紙に対する思いとも重なり、
「日本の神様の物語を、日本の紙に綴る、描く」というコンセプトが私の中で生まれました。
ですが、そこからさらに、実際にはどうすればよいのかわからず、思案する日々が続きました。私は文章を書くことを主たる生業としておりますが、絵を描くことはできませんし、本に携わる仕事をしているといっても、書いたものを版元へ提出すれば、あとは形になってくるのを待つばかりの身です。
それに、日本中に神様の物語がいくつもあるなかで、古事記の世界を忠実に形にしていくというのは、今回、どこか違う気がしておりました。もっと森羅万象に宿るもの、精霊、神威というようなものを表現したいと思っていたのです。
そんなときに、鳥取県米子市に住む友人・森田多佳子さんの紹介で、日本画家の水野竜生先生とデザイナーの谷さやさんが弊社にお越しくださったのです。それは弊社が小さなギャラリーを併設していることから、画家を紹介したい、という友人の配慮によるものだったのですが、どこか大黒様にも似た風貌の水野先生がニコニコしながら、「最近、手がけた作品はこれです・・・」とご持参くださった絵に私は釘付けになりました。
それが、島根県の隠岐諸島、西之島にある焼火神社の絵だったのです。風景画のような写実的なものではなく、まさに、その土地の溢れんばかりのエネルギーをそのまま転写したかのような、躍動感溢れる地球の鼓動までもが伝わってくるものでした。私はそこに確かに神様を感じたのです。数分後には「一緒に本をつくりませんか」とお声かけしていました。
そして、私はその約1ヶ月後、一人で隠岐島へ向かっていました。
水野竜生(日本画家)
https://www.sakuranoki.co.jp/mizuno_ryusei/
ATELIER RYUSEI
https://www.instagram.com/atelier_ryusei/?hl=ja
Japan Craft Bookプロジェクト
代表 稲垣麻由美
ーつづくー
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