「人は、どんなときに気持ちよくお金をだすものでしょうか。」
そんなことを、今、グルグル考えています。
昔、起業したての頃、「こんなに頑張っているのに、お金がついてこない!」と、ある社長の前でぼやいたら、「それは、まだまだ君が誰かを幸せにできていない、ってことだよ」と笑って話してくださいました。
お金はエネルギーであり、例えば「ありがとう」や「感謝」の対価が収入なのだと腹落ちしてから、私は少し変わったような気がします。
さて、どうしてそんなことをグルグル考えているかと申しますと、日々、本作りの現実と向き合っているからです。
「日本の神様の物語を、日本の紙に綴る、描く。」というコンセプトのもとにスタートしたこのプロジェクトは、当然のことながら制作費が通常の本よりかなりかかります。
「日本の紙」=「和紙」を使うと決めた時点で、それはわかっていたことであり、単に紙代だけでなく、紙を変えると印刷方法も変わり、製本の仕方も変わります。
ですから、本作りをスタートする時点で、次のどちらで進めるかを決める必要がありました。
【1】1冊いくらにするかを予め決めておき、コストを考えながら仕様を決める。
【2】ここに集ったメンバーが、これぞと思うものをまずは形にする。そこから売値を考える。
出版業界にいる人間にとっては【1】が当然で、この視点なしに進める危険性は骨身にしみてわかっています。
先日も、お世話になっていた出版社が民事再生手続を行った、との連絡が裁判所から届きました。とてもいい本を丁寧につくっておられる版元さんでした。ここ数年で同様のケースが数社あり、厳しい現実を日々リアルに感じています。
ですが、今回のプロジェクトを【1】で進めると、薫り立つ花が咲かない気がしました。これだけたくさんの本が日々生まれ、消費され、情報が溢れる中で、ちゃんとエネルギーが宿り、何かが薫るものでなければ、手に取ってもらえません。
まして、宿したいものが日本の美や日本人の精神性のようなものであるならば、コストありきではうまくいかない、既存のマーケティング通りにはいかない、と思ったのです。
自分達が納得いくものをまずは作ってみよう。そこからコストとのバランスを考えよう、とスタートしてはや1年。
そして、形になりつつある『神迎え』の特装版。
美しいものが誕生しつつあると自負しています。
ただ、いくら自分達がそう自負していても、それが市場でどう受け入れらるかは別。どこに価値を感じていただけるのか。かかった費用に見合った価格にしても、「これが欲しい!」と思ってもらうために私は何をすればよいのか、そんなことを考え続けています。
ちなみに、この本を作成するために必要な石州和紙はすでにまとめて購入済みです。冒頭に触れた通り、私が気持ちよく代金を納められたのは、こんなにも美しい紙を生み出してくださっていることに感謝しているからです。というより、むしろあの工程と手間を考えたらこの金額でいいのでしょうか、と思いました。まさに、価値とのバランス。
また、和紙にもいろいろあるのですが、手漉き天日板干しのものをお願いしました。干し方によってもお値段が変わります。コストを考えて、天日干しとステンレス(鉄板)干しのどちらにするかちょっと迷った時、和紙の件でお世話になっている東京マスミの横尾靖さんから「天日干しとステン干しの違いは、ぱっと見ただけではわからないんです。でもね、これが2年、3年経つうちに明らかに違いが出てくるんです。そういうことがとても大事なんです」と言われました。
石州和紙は実にしなやかで黄味がかった色合いをしているのですが、時を経るにつれさらに強く、白く美しくなっていくそうです。
この本が広がることが、ささやかながらも日本の和紙を広めることにつながる、そう信じて制作しています。