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  • 【vol.25】隠岐島前神楽 ー美しい神楽歌

    【vol.25】隠岐島前神楽 ー美しい神楽歌

     

    今制作している『神迎え』は、2022年7月23日、焼火神社の例大祭で奉納された隠岐島前神楽の一夜を描いたものです。

     

      
    こちらは、構成を考える際の試作版の一部です。

     

    「扇と榊を手に社家が舞い
    巫女が鈴を高らかに振り鳴らし
    くるりくるりと舞う。

    神の道は色々あるけれど、
    真ん中の道は神に通じている。」

    神の道はいろいろあるけれど、
    真ん中の道は神に通じている。

    この一節は、松浦宮司から教えていただいた神楽歌の中にあるものです。
    心惹かれ、この本の中でご紹介したいと、最初に書き留めておいた2行です。

     

     

    そもそも神楽の目的は、これより神に近づき、神の意向を伺う、ということにありました。
    今では、神楽の芸能面や娯楽性にスポットが当たることが多いようですが、島根県隠岐諸島 西之島で体験した、あのお神楽は、その原点を色濃く感じられるものでした。

     

     

    こちらの写真は巫女(神子)舞です。

     

    隠岐島前神楽では、終始、巫女が重要な司役をつとめます。これは全国的にも極めて少ないことだそうです。明治初頭に禁止された『注連行事(しめぎょうじ)』では、巫女が神名帳を読みあげて神勧請(かみかんじょう)を行い、最後に神懸かりとなって神託を述べていた、と資料にありました。

    「そういったことは、なんら不思議ではない」
    あの夜、私はあの空気感の中で、そう感じたのでした。

     

     

    現在、島前神楽は島前地区の有志の方が集まって保存会組織として伝承されています。昭和40年頃までは、保存会組織ではなく、社家(しゃけ)と呼ばれる神楽を専業とする特別な家系により、家伝秘伝として継承されていたそうです。

    かつて、社家は島後(隠岐島)に13家、島前(西ノ島・中ノ島・知夫里の3島) には5家あったそうです。いかに神楽というものがこの地域で重要なものであったかがわかります。それは、神楽が神社の祭礼に奉納するものではなく、海に囲まれた離島ならではの厳しい環境の中で、祈祷のための神楽であったこととも関係しているのではないでしょうか。

     

    水野竜生先生にかかると、演者の皆様が、なんともキュートになります。

     

    ちなみに隠岐島前神楽があるということは、島後神楽も当然あります。私は島前神楽しか拝見していないのですが、その芸風には大きな違いがあるそうです。
    隠岐島前神楽ではアップテンポの賑やかな囃子に、舞い手が約4畳の舞台中央や船上で舞います。その一方、島後神楽はゆったりとしたテンポの囃子に、舞い手が舞台中央にある約2畳の狭い板張りの上で舞うのだそうです。

    また、島根県の神楽といえば、石見神楽が有名ですが、こちらはまた全く違う趣きです。哀愁を帯びた囃子に豪華絢爛な衣裳を身にまとい演舞されます。

    信仰的要素が残るものと、芸能的要素が拡張されて伝承されてきたもの。同じ「神楽」と言っても、少し離れたエリアでも大きく違うのですから、興味はつきません。

     

     

    最後に、本の中にいれた神楽歌の中の一節をもう一つご紹介させていただきます。


    東を拝めば神が降りる。
    諸々の神も花の様に美しく見える。

    南を拝めば神が降りる。
    諸々の神も花の様に美しく見える。

    西を拝めば神が降りる。
    諸々の神も花の様に美しく見える。

    北を拝めば神が降りる。
    諸々の神も花の様に美しく見える。


    いつの時代に、誰が綴ったかもわからぬこの言葉に、
    どうしようもなく惹かれ、魅せられます。

     

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    代表  稲垣麻由美

    ーつづくー

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  • 【vol.24】伝統と革新 石州和紙・西田誠吉氏

    【vol.24】伝統と革新 石州和紙・西田誠吉氏

     

    先日、このプロジェクトでお世話になっている石州和紙・西田和紙工房の西田誠吉さんが「手漉き紙四人展2023」(6月19日〜24日)を小津和紙(東京・日本橋)で開催されると伺い、水野竜生先生、デザイナーの谷さやさんとお目にかかってきました。

    もちろん、制作中の本を抱えて。

     

    (我々の視点だけでは思いつかなかった、貴重なアドバイスをいただきました。西田さんとデザイナーの谷さん)

     

    西田さんにお目にかかるのは約1年ぶりです。
    島根県浜田市三隅町にある工房に伺ったのは2022年7月21日のこと。朝7時10分羽田発の飛行機に乗って出雲空港へ。その後、レンタカーでひたすら西へ走ること2時間半。我々を迎えてくださった西田さんの柔和な笑顔に、朝から張り詰めていた緊張が一瞬で解けたことを、東京のど真ん中で再会し、思い出しました。あの日は、このプロジェクトが本格始動した大事なスタートの日でもあったのです。

     

    (小津和紙さんでの四人展にて)

     

    今一度、西田和紙工房7代目・石州半紙技術者会会長でもある西田誠吉(せいぎ)氏について紹介させてください。

    初代の西田作三氏は文化・天保の頃に活躍されていたそうですから、200年も和紙とともに歩んでこられた家系です。紙づくりは浜田藩の財政を支える重要な産業だったため、江戸の最盛期には2000軒を超える作業所があったそうですが、現在は4軒のみ。地元の原料にこだわり、8代目となるご子息の勝さんとともに、「気持ちの伝わる手仕事として残していきたい」と続けておられます。

     

     

     

    石州和紙は1300年の歴史を持っており、書画紙以外にさまざまな用途で使われていますが、石州和紙ならではのしなやかさと強靭さ、糊もちがよく伸び縮みがないという特徴が最大限に活きる修復紙、裏打ちの紙としての需要が多いそうです。

    ボストン美術館・大英博物館などでも貴重な美術工芸を保存修復するのに欠かせないものとして、また、二条城の襖の下張、屏風・障壁画の裏打ちにも、西田さんの和紙が使われています。

    工房の若手の方が、「アーティストではなく、職人として、用途に合わせて紙を漉くことが大事」とおっしゃっていたこと。そして、西田さんの「誰の目にも映らず、地味なところで下支えする仕事に誇りを持っています」との言葉が強く印象に残っています。

     

    (工房にて一緒に。島根の血をひく私はどこか懐かしい気がしました)

     

    近年はインテリア用の和紙の注文なども増え、新たな作品も次々と発表されています。大手ホテル企業からの依頼にあわせて制作された、藍の濃淡と墨の濃淡で日本海の昼と夜を表現した和紙のパネル作品には、特に魅了されました。弁柄色の壁にそのパネルはとても映えるそうで、いつか作品を愉しむことを目的にそのホテルに泊まってみたいと思っています。

    また今回、雅楽で使われる篳篥(ひちりき)のリードにも石州和紙が使われていることを西田さんから伺い知りました。我々の知らないところで、和紙はまだまだ重要な役割を果たしており、まさに伝統を守り、革新を続けながら、伝承されています。

     

     

    さて、会場で「石州半紙」鶴 「石州半紙」稀 と書かれている箱を見つけました。違いは、楮の繊維をほどくためにビーターという機械を使うか、人間が手打ちするか(「六通六返し」といい、硬い木盤の上に原料をのせ、樫の棒で左右六往復し、上下に六回返して叩きます)、塵をどこまでとるか、また、機械干しか天日干し(絞った紙床を一枚一枚剥がし、銀杏の干板に貼りつけ、お日様にあてて乾燥)か、その工程の一つひとつの違いによるものだそうです。

    ちなみに、Japan Craft Bookの『神迎え』で使用する和紙は、こちらの「稀」です。

    この紙が誕生するまでの工程と手間、楮農家の方、携わっておられる方々のお顔が見えてくればくるほど、この本が、物語を伝える以上の役目を果たしていくようにとの思いが強くなっていきます。

    そしていずれ、このニュースレターを読んでくださっている方々にお声かけをし、西田和紙工房や焼火神社にご案内するツアーなども、計画したいと思っています。

    Japan Craft Book プロジェクト 

    代表  稲垣麻由美

    ーつづくー

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  • 【vol.23】あえて和綴本にしないという選択

    【vol.23】あえて和綴本にしないという選択

     

    「和紙を使って本を作ろうとしています」とお伝えすると、多くの方は和綴本をイメージされるようです。このニュースレターを読み続けてくださった皆さまも、もしかしたら、そのイメージでいらしたかもしれません。

    でも、Japan Craft Book第一号となる焼火神社(島根県・隠岐諸島)の本は、あえて和綴本にしないことに決めました。

     

     

    理由はいくつかあります。
    このプロジェクトを立ち上げたときから、
    「和綴本にすれば、いかにも“Japan”という感じにはなる。だけど、それで本当によいのか」
    と思っていました。

    前号のニュースレターで「和紙とはなにか」を書きましたが、今、簡単に手に入るインクジェット用の和紙に絵と言葉を印刷し、和綴で仕上げれば、「和風の本」はすぐにできます。
    温泉地のお土産屋さんなどに行くと、足ツボの解説や前向きになる言葉集など、和綴本が民藝品と並んで売られていたりします。

    それはそれで正解であり、ひとつの形なのですが、私の中で明確にあったのは「わざわざ和風にした本を作りたい」のではなく、「本物の和紙にこだわり、日本人の精神性を五感で感じられる本を作りたい」でした。

    このプロジェクトの根底には、伝統工芸に関心を持つ人の裾野を広げることに寄与したい、という思いがあります。そのためにも、この本は手にして下さった瞬間に、何かを感じていただかなければならないと思っていました。

     

     

    例えば、羊羹で有名な虎屋さんは500年続く老舗中の老舗ですが、時代に合わせて材料の配合を変え、味(甘さ)の調整を続けているというのは有名な話です。パッケージも常に進化し、世界に通じる洗練の「Japan」を感じます。

    伝統は革新を続けてこそ残り、現代の生活と結びついてこそ継承されていくものと考えるならば、安易に昔の形をとるだけでは響かないはずです。

    ……と、立派なことを掲げるのは簡単ですが、どう形にしていくかは難しい課題でした。

     

     

    具体的なイメージが定まらないまま、私は画家・水野竜生先生に絵の依頼をし、デザイナーの谷さやさんに自分の思いだけを伝えてこのプロジェクトはスタートしたのです。
    そして、水野先生、谷さんと共に焼火神社の例大祭に行き、全国的にも珍しい独特のリズムと神秘に満ちた隠岐島前神楽を拝見する機会を得たのです。

    水野先生に、絵に関して何もリクエストはしませんでした。出来上がってくる絵を楽しみに待つ、それが正解だと思っていたからです。
    実際、水野先生が描き上げられた絵は、私の想像を遥かに超えるものでした。変な表現かもしれませんが、とても「綴じる」という世界にとどまらないものだと感じました。

    このプロジェクトがスタートした頃、プロダクトディレクション・印刷を担当してくださっている篠原紙工の篠原慶丞さんに「今回、一番の肝はなんだと思いますか?」と尋ねたことがあります。
    そのとき、即座に「水野先生の絵をいかに忠実に再現するかです」との答えが帰ってきたことをよく覚えています。文章を担当している私としては、ちょっと突っ込みたいところもなくはなかったのですが(笑)。
    でも確かにその通りで、この絵が放つものをいかにそのまま届けるかが、この本を世界へ届けることに繋がると確信しています。

    そして、デザイナーの谷さんも先生の絵を最大限に活かすこと、そして、使用する石州和紙の魅力をどう伝えていくかを考えて、形にしてくださったのが、この『神迎え』です。

     

     

    また、もうひとつ制作中の『御神火』は、闇夜の隠岐の海、その静けさを表現するために、先生の絵だけでなく、谷さんが撮影した写真も使うことになりました。

    写真を和紙に印刷すると、とても素敵な風合いになるのですが、繊細な波の表情が再現できません。また、3つの火の玉が巌にぶつかり一瞬にして闇夜が切り裂かれ、新たなエネルギーが宿る瞬間を描いた先生の極彩色の絵も、和紙に刷るとどうしても沈んでしまうのです。

     

     

    和紙にどこまでもこだわりたい私は、どうしたものか、と思っていたところ、谷さんから
    「全てを和紙にすることが重要なのでしょうか。現代の技術、美しく印刷される紙を採用することも考え、ミックスしながら仕上げてもいいのではないでしょうか」
    と言われ、はっとしました。

    前述した虎屋さんのように、伝統と革新の掛け合わせの思想で本作りをすればよいのだ、と腑に落ちたのです。

    ちょっと話がずれますが、いま、レコードブームが起きています。あの柔らかな音が若い人には新鮮で、ある年齢以上の人にはどこか懐かしく、すっと耳に届きます。だからといって、すべての音楽をレコードに戻して聴こうというのではなく、それぞれの人の好みで、曲や楽器によっては、CDやデジタルの方がいい場合もある。それと同じだと思いました。

    和紙に実際に触れ、あたたかな質感にはっとしていただくページと、現代の紙が1冊の中に混在していてもいい。それが違和感なくまとまるには、デザイナーの力量が必要ですが、そこに関して不安はありません。
    そして、前号に書いたコストとのバランスも、なんとか解消できそうです。

    Japan Craft Book プロジェクト 

    代表  稲垣麻由美

    ーつづくー

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