娘が24歳の誕生日を迎えた。
コロナで思うように出かけられない中、彼女からのリクエストは
「素敵な花束が欲しい。すごーくおしゃれなやつ」だった。
おいおい。
「すごーく おしゃれなやつ、ってどんな?」
娘はこのところ元気がなかった。
いつも笑顔でいて欲しい、と思うのは親の切なる願いだ。
立派な成功、みたいなことを親は子に求めていない。
ただただ、彼女が日々ご機嫌でいてくれることが
私にとって一番嬉しいことなのだが、
なかなかそうはいかない。
彼女の笑顔がふさぐことの多い1年だった。
久々のリクエストに母は燃えた。
すごーくおしゃれな花束を作ってもらうには
表参道あたりの花屋さんに行けば確実なんだろう。
でも、このコロナで有名どころはしまっている。
地元で・・・うーーん。
そんなとき、FBを眺めていたら友人が素敵なブーケの写真を
アップしていた。
「これだ!」と思った私は、早速その友人にコンタクトをとり、
どこの花屋さんか教えてもらった。
その花屋さんは家から車で15分ほどのところにある
「リトルリオンリリイのお花やさん」だった。
https://www.littlelionlily.com/
鎌倉・坂ノ下か・・・。海沿いに花屋さんってあったっけ?
HPをみると、なかなかいい感じ。
とにかく、連絡してみよう。
電話をすると、とてもダンディな声が耳に届いた。
「どんなお花がご希望ですか?」とことこまかに尋ねてくださり
こちらの要望を伝えると
「では、お眼鏡に叶うようなお花を揃えておきますね」と。
よし、決まり!
その2日後にお店に行くことにしたのだが・・・
前日になって、他の友人から突然電話が入った。
FBにブーケをアップしていた友人(恵さん)ではなく、
恵さんにリトルリオンリリイさんを紹介した
夢子さんからだった。
夢子さんが説明してくれたところによると・・・
夢子さんとリトルリオンリリイの店主・田中さんは
中学・高校の同級生で、古い付き合いなのだそうだ。
リトルリオンリリイさん自体は、実は奥様が開いておられた
お花やさんなのだけれど、奥様が1年前に他界。
今は、奥様の意思を継いでご主人様が本業の傍、
開いていらっしゃるのだという。
「田中君の奥様はプロだったから、すごく素敵な花束をつくれたんだけど、田中君自体は、ちょっとそこが難しいのよ。麻由美さんは、恵さんの写真を見てお願いしようと思ってくれたんだよね。申し訳ないんだけど、私が恵さんに頼むから、リトルリオンリリイでお花を買ってもらったあと、恵さんのところに行ってもらえる?田中君より恵さんにブーケにしてもらった方が絶対にいいから!」
と言われて、電話が切れた・・・
ちなみに恵さんという方は、
現役のブライダルフラワーデザイナーである。
彼女がセンスがいいのはもちろん知っていたけれど、
わぁ〜〜なんだか、大変なことになっちゃたな、
というのが私の正直な感想だった。
そして翌日、リトルオンリリイさんに向かった。
海が真正面に見える最高に気持ちの良い場所にそのお店はあった。
まさに隠れ家花やさん。
店主の田中さんは、声だけでなく、本当に感じの良い人だった。
5月の湘南の海はいつも優しいブルーの色をしている。
店内もそのブルーと同じ壁紙が貼られ、実に明るく心地よい。
テーブルいっぱいに、お願いしていた黄色と白を中心とした花が
用意され、あちこち眺めながらついつい話し込むことになる。
用意されたお花のほとんどがオーガニックのものだった。
亡くなられた奥様がオーガニックの花にこだわり
生前は一緒に日本中の生産農家さんを回られたそうだ。
実は私は”オーガニックの花”という言葉すら知らなかった。
その概念がなかったという方が正しいかもしれない。
「オーガニックの花はね、とにかく強いんですよ。
スクッと自分の足で立っている感じで、
見ているだけで元気になります。
こういう花を育てている農家さんも、
なんだか気持ちの良い方ばかりでね。
この花なんかも、買ってきてから3週間以上経ってるんですけど、
ねっ、ピンピンしてるでしょ。まぁ、商売ってことを考えると、
つらいところもあるんですけどね。ワッハハッ」
と、ガラスの花瓶に挿したデルフィニウムを
見せてくださりながら、田中さんは豪快に笑った。
気がつけば1時間以上もお邪魔し、すっかり楽しい気分になった。
そして、用意してくだったお花の中から、娘のことを思いながら
自分で花を選ばせていただいた。
メインにひまわりを、そして、
緑色のクリスマスローズや可憐なレースフラワーを
添えることにした。
田中さんは、私にもたせてくれるラッピングの用意をしながら、
「やっぱり僕では、まだまだ妻のようにはできませんから
夢子さんの提案はありがたかったですよ。
なんだかお手間をおかけしますが、宜しくお願いします」
とおっしゃった。
素直な心と謙虚さに、人としての大きさを感じる。
夢子さんに言われた通り、その選んだ花を私はバケツに入れ、
15分ほど車を走らせ、恵さんの自宅まで運んだ。
久しぶりに会う恵さんは、笑顔で迎えてくれた。
「なんだか嬉しいわ。お役に立てて!
ちょっと時間がかかるから、1時間ほど後に
ご自宅に届けさせてもらうね」
と。
「いやいや、ブーケにしてくださる上に、届けてくれるなんてとんでもない」
と私は言ったのだが、
「大丈夫、だいじょうぶ、任せて!」とウインクされてしまった。
(・・・ように見えた)
そのウインクに完全ノックアウト。ありがたい〜。
しかし、正直なところ、
なんだかお手間をかけちゃったな、とも思った。
だって、近くの花やさんでお花を買うだけなら、とてもシンプルな工程だ。
人が介在してくださるほどに、申し訳なさが増す。
・・・そして、それから本当に1時間後、我が家のベルがなった。
開けると、そこには、恵さんだけでなく夢子さんも一緒だった。
夢子さんの頭には、可愛らしいバースデーケーキの形をした帽子が
ちょこんとのっていて、恵さんの腕には、思わず声をあげずにはいらないほど
素敵なブーケが抱えられていた。
二人は今にも「HAPPY Birthday!」と歌い出し、
踊り出しそうな笑顔いっぱいで玄関前に立っていた。
その時、ちょうど娘はいなかったので、
私が受け取ることになったのだけれど、
なんだか、私はわんわん声をあげて泣きそうになった。
二人の気持ちが、たまらなく嬉しかった。
その花束が冒頭の写真のものだ。
ねっ、素敵でしょ。最高にセンスよいでしょ。
この花束には、たくさんの人の想いと手が詰まっている。
帰ってきた娘にこの花束を渡したとき
久しぶりに、やわらかな笑顔の花が咲いた。
この花束がどうやって生まれたのか、どうやってここまで届けられたのか、
その話をさらに伝えると、娘の笑顔が、今度はひまわりになった。
「ほんとに、すごーく、おしゃれな花束だね。
想像していた以上だよ。ありがとう」
と言って、ひまわりに朝露がこぼれた。
夢子さんの帽子姿を見せると、娘はさらに笑った。
きっと、私が表参道まで出向き、小洒落た花を買ってきたとしても
こんなに娘を笑顔にできなかったと思う。
たくさんの優しさがつまった花束。
本当によかった。
ご好意に甘えるというのは、ときにとても大事なことなのかもしれない。
私はすごく大事なことを夢子さん、恵さん、田中さんに教えてもらった。
ありがとう。ほんとうに。
そうそう、リトルオンリリイのお花やさん、
お花の宅配もしてくださるそうです。
おすすめですよ^ ^

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